犬のてんかんの原因とは?発作が止まらないときの対応マニュアル

突然、愛犬が倒れ、けいれんし始めた。

呼びかけにも反応せず、体を硬直させて苦しそうにしている姿に、パニックになってしまう飼い主さんも多いでしょう。

「このまま止まらなかったらどうしよう」「今すぐ病院に行くべき?」と、頭が真っ白になる瞬間かもしれません。犬のてんかん発作は、見た目の激しさに反して一時的なものも多く、数分以内で収まることが一般的です。

しかし、発作が5分以上続いたり、短時間で何度も繰り返されたりする場合は、命に関わる「てんかん重積状態」の可能性があり、早急な対応が必要です。

このページでは、愛犬のてんかん発作が止まらないときに飼い主として取るべき行動や、発作の原因、受診の目安などをわかりやすく解説します。

大切な家族の命を守るために、ぜひ最後まで目を通してみてください。

犬のてんかんとは?

「てんかん」とは、脳の神経細胞が一時的に異常な電気信号を出すことで起こる発作性の病気です。

人間だけでなく、犬にも発症することがあり、発作は繰り返し起こるのが特徴です。

犬のてんかんには、一度の発作で治まるものと、慢性的に再発を繰り返す「てんかん性疾患」とがあります。

よくある誤解として、「けいれん=てんかん」と思われがちですが、実際には中毒や低血糖、脳腫瘍など他の疾患でも同様の発作が起こることがあるため、正確な診断には慎重な判断が必要です。

てんかんは、原因の有無によって大きく2つに分けられます。

ひとつは「特発性てんかん」と呼ばれ、明確な異常が見つからないが遺伝的に発症しやすいタイプ。もうひとつは「症候性てんかん」で、脳に明確な病変(腫瘍や炎症など)がある場合です。

発症しやすい年齢は、1〜5歳の若い犬に多く、特にビーグル、ボーダーコリー、ラブラドール・レトリバー、柴犬などに多くみられる傾向があります。

ただし、シニア犬でも後天的な原因でてんかんを発症することもあるため、年齢に関係なく注意が必要です。

犬のてんかんは、適切な診断と治療でコントロールできる病気です。

まずは「どんな発作が、どのように起きているのか」を正しく把握することが、治療への第一歩となります。

犬のてんかんの主な原因

犬のてんかんの原因は、大きく「特発性てんかん」と「症候性てんかん」の2つに分けられます。

特発性てんかん(Idiopathic Epilepsy)

特発性てんかんとは、検査をしても脳に明らかな異常が見つからない場合を指します。

主に遺伝的な要因が関係していると考えられており、比較的若い年齢(1~5歳)で発症することが多いです。

このタイプは最も一般的で、柴犬、ミニチュアダックスフンド、トイプードル、ビーグル、ボーダーコリーなどに多く見られます。

発作は突発的に起こり、一定の間隔で繰り返される傾向があります。

特発性てんかんの場合、治療により発作の頻度や重症度をコントロールできる可能性が高く、うまく付き合っていくことが重要です。

症候性てんかん(Symptomatic Epilepsy)

症候性てんかんは、脳の異常や疾患が原因で起こるてんかんです。

こちらは特発性よりもリスクが高く、治療方針も異なります。

主な原因は以下のとおりです。

  • 脳腫瘍
     特に高齢犬に多く、てんかんが初期症状になることもあります。

  • 脳炎や髄膜炎
     感染症や自己免疫性疾患によって起こる脳の炎症が原因になることがあります。

  • 外傷
     交通事故や落下などによる頭部外傷も、後遺症としててんかんを引き起こすことがあります。

  • 中毒や代謝性疾患
     チョコレートやキシリトールなど中毒性のあるものを摂取した場合、脳に影響が及ぶことがあります。
     また、肝臓や腎臓の疾患、低血糖などの代謝異常も発作の原因になります。

 

その他:環境要因や生活習慣も関与

てんかん発作の引き金として、強いストレス、激しい運動、極端な気温変化、睡眠不足などが関係することもあります。

特に体調を崩している時期や、旅行・引っ越しといった生活環境の変化が続いたときには、発作が出やすくなることも。

犬のてんかん発作の種類と症状

犬のてんかん発作は、すべてが同じように起こるわけではありません。

発作の種類によって症状は大きく異なり、見逃されがちな軽い症状から、命に関わる重度のけいれんまでさまざまです。

ここでは主な3タイプの発作を紹介します。

1. 大発作(全身性強直間代発作)

もっともよく知られているタイプで、全身のけいれんを伴う発作です。

犬が突然倒れ、意識を失い、手足をバタつかせるような激しい動きを見せます。その間、よだれが大量に出る、尿や便を漏らす、口から泡を吹くこともあります。

発作は通常、数秒〜数分でおさまりますが、長く続いたり、何度も繰り返したりする場合は「てんかん重積状態」となり、命の危険があるため注意が必要です。

2. 小発作(意識の保たれる軽度な発作)

見た目にはあまり目立たないタイプの発作です。

犬が突然ぼーっとした表情になったり、視線が定まらなかったり、一時的に反応が鈍くなるような症状が見られます。

「ちょっと様子が変だな」と思っても、すぐに回復するため見逃されることも少なくありません。

しかし、このような小さな異変が繰り返される場合、てんかんの初期症状として見過ごしてはいけません。

3. 部分発作(焦点性発作)

脳の特定部位だけに異常が起きることで、体の一部に限定して症状が出る発作です。

たとえば、顔の片側だけがピクピク動く、足を引きずるように歩く、同じ方向にぐるぐる回るなどの症状があります。

また、異常な吠え方をする、空中を噛むような行動を繰り返すなど、一見すると行動異常のように見えることもあり、発作と気づかれにくいのが特徴です。

発作が止まらないときの緊急対応

犬のてんかん発作は、多くの場合数秒から数分で自然に治まります。

しかし、5分以上続く発作や、発作が連続して起こる状態は「てんかん重積状態(じゅうせきじょうたい)」と呼ばれ、命に関わる非常に危険な状態です。

そんなとき、飼い主が冷静にどう行動するかが、愛犬の命を左右することもあります。

発作中に絶対やってはいけないこと

まず、犬が発作を起こしている最中にしてはいけない行動を知っておきましょう。

やってはいけないこと 理由
犬の体を無理に押さえつける けいれんによって犬の筋肉は強く収縮しており、力を加えると筋肉や関節を傷める危険があります。
口に手を入れる・舌を引っ張る 「舌を噛まないように」と思って口に手を入れると、無意識のうちに強く噛まれてしまうことがあります。犬の舌は基本的に噛んでも窒息しませんので、触れずに見守りましょう。

 

発作中の正しい対処法

発作が始まったら、次のように落ち着いて対応してください。

  1. 周囲の安全を確保する
    床にぶつかりやすい物や、角のある家具などが近くにある場合は、やさしくクッションやタオルなどを置いてケガを防ぎます。犬を移動させるのではなく、周囲を安全にします。

  2. 発作の時間を計る
    スマホのタイマー機能などを使って、発作の「開始時間」と「持続時間」を把握しておくことはとても重要です。獣医師の診察時にも必要になります。

  3. 可能であれば動画を撮る
    発作の様子を正確に記録することは、診断に役立つ重要な情報源になります。手が空いていればスマートフォンなどで撮影しておきましょう。

  4. 声はかけても、触れずに見守る
    不安な気持ちから抱きしめたくなるかもしれませんが、犬に触れるのは発作が完全に治まってから。優しく名前を呼ぶだけにとどめ、静かな環境を保ちます。

緊急対応が必要なサイン

以下のような状況は、すぐに動物病院に連絡し、指示を仰ぐ必要があります。

  • 発作が5分以上続いている

  • 発作が治まっても短時間で繰り返し起こる(群発発作)

  • 発作後、意識が戻らない

  • 異常な高体温(熱がこもる)や、呼吸が荒い・浅い状態が続く

こうした状態が続くと、脳へのダメージ命の危険が高まります。

夜間であっても、救急対応可能な動物病院にすぐ連絡してください。

動物病院に向かうときのポイント

病院に連れて行く際は、次のような準備をしておくとスムーズです。

  • 発作の動画や経過メモ

  • 服用中の薬がある場合はその情報

  • どのくらいの頻度で発作が起きているかの記録

また、発作後すぐに動かすのは体力を消耗させるため、意識が戻ってから移動するようにしましょう。

キャリーやクッションを使い、安静を保ちつつ移動するのが理想です。

発作が続く原因と再発リスク

犬のてんかん発作が続いてしまう場合、そこにはいくつかの原因や背景が考えられます。

発作の再発や重積状態を防ぐためには、こうした原因を理解し、日常の中で予防・管理していくことが重要です。

1. 抗てんかん薬の投与ミス・効果低下

もっとも多いのが、抗てんかん薬の投与に関する問題です。

薬の飲み忘れや、飼い主が自己判断で量を減らしてしまうことで、血中の薬物濃度が下がり、発作を抑えきれなくなることがあります。

また、長期間使用することで薬に対する耐性ができ、以前より効きにくくなるケースも。発作が増えてきた場合は、薬の種類や量の見直しが必要になることもあります。

2. 脳疾患や基礎疾患の進行

特に中高齢犬で注意が必要なのが、脳腫瘍や脳炎、脳梗塞などの進行性疾患です。

これらが原因となる「症候性てんかん」は、薬で発作を抑えるだけでは十分な対処にならず、根本的な治療や精密検査が求められます。

また、肝臓病や腎不全、低血糖、電解質異常などの内臓疾患も、発作の引き金になることがあります。

3. 老犬に見られるてんかん以外の発作

高齢の犬では、てんかんではない別の発作(たとえば認知症による混乱行動や、肝性脳症など)との見分けが難しいことも。

発作の様子が以前と違う、回数や時間帯に変化があるなどの場合は、別の病気の可能性も含めて診察を受けることが大切です。

病院を受診する目安と診察時のポイント

犬と獣医師

てんかん発作があったからといって、すぐに病院へ駆け込まなければならないとは限りません。

しかし、命に関わる状態や、てんかん以外の疾患が疑われる場合は、早期の受診が必要です。

動物病院を受診すべきタイミング

以下のような症状や経過がある場合は、できるだけ早く動物病院で診察を受けましょう。

  • 発作が5分以上続いている

  • 短時間に何度も発作を繰り返す(群発発作)

  • 発作後も意識が戻らない、ふらつきがひどい

  • 発作の回数が急に増えた、様子がいつもと違う

  • 初めて発作が起きた(診断がついていない)

これらは「てんかん重積状態」や他の重大な疾患の可能性があり、早期対応が必要です。

診察時に伝えるべき情報

診断や治療方針を決めるために、以下の情報を整理しておくと診察がスムーズになります。

  • 発作が起きた日時、回数、継続時間

  • 発作の様子(動画があるとベスト)

  • 発作の前後の行動や状態

  • 現在飲んでいる薬やサプリメント

  • 最近の体調や環境の変化(引っ越し、ストレスなど)

また、「いつ頃から症状が出始めたか」「最初の発作から何回目か」など、経過の情報も重要な判断材料になります。

動物病院での主な検査

てんかんの診断では、以下のような検査が行われることがあります。

  • 血液検査(内臓疾患や中毒の有無を調べる)

  • MRI・CT検査(脳腫瘍や炎症などを確認)

  • 脳波検査(EEG)(神経活動の異常をチェック)

特に高齢犬では、症候性てんかんや他の神経疾患との鑑別が必要になるため、精密検査が勧められることもあります。

「怖い」を「安心」に変えるためにできること

愛犬が突然てんかん発作を起こしたとき、誰でも不安になり、どうしていいかわからなくなるものです。

けれど、てんかんは適切な治療と日々の管理でコントロール可能な病気です。そして何より、飼い主が落ち着いて対応することが、愛犬にとっていちばんの安心につながります。

発作が起きたときに必要なのは、「慌てない」「無理に触らない」「安全を確保する」こと。そして、5分以上続いたり、何度も繰り返すようであれば、すぐに動物病院へ相談してください。

発作の様子を記録しておくこと、発作日記をつけておくことも、今後の治療にとって大きな助けになります。また、てんかんと診断されたとしても、それは終わりではなく、むしろ新しい向き合い方の始まりです。

薬で発作を抑え、刺激を減らした生活を整えることで、発作を最小限にできる可能性は十分にあります。大切なのは、「てんかん=特別な病気」と身構えることではなく、「うちの子に合ったケアを知ること」。

情報と心構えさえあれば、どんな発作にも冷静に対応できるようになります。これからも愛犬との毎日が、穏やかで健やかなものであるように。

このページがその一助となれば幸いです。

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